河野慶三コラム 産業医の方へ

第1回 職場復帰困難者のチェックリスト

 職場におけるメンタルヘルスケアの現場では、まだまだ不調者を対象とした活動に時間をとられており、なかでも職場復帰にかかわることが大きなウェイトを占めている。
 復帰が困難な事例について整理してみると,現象的につぎの6つのタイプにわけることができた(河野慶三:心の健康づくりのための心理相談担当者必携。中央労働災害防止協会、7〜8ページ、2016)。復帰困難事例に遭遇したときには、漫然と経過をみるのではなく、このチェックポイントについて検討してみることをお勧めしたい。

職場復帰困難事例の分類と課題のチェックリスト

  1. 復帰可能な健康状態に回復しない
    1. 医療にかかわる問題
      • 診断が正しいか
      • 治療が適切か
      • 薬物の服用がきちんと行われているか
    2. 本人の問題
      • 睡眠を含む生活リズムが維持されているか
      • 職場復帰への意欲があるか
  2. 復帰可能な健康状態にはなるが復帰にふみきれない
    • 通勤に関する不安
    • 再燃の不安
    • 復帰部署の問題(元の職場に戻ることへの心理的抵抗)
  3. 復帰するがすぐに症状が再燃し欠勤状態になる
    1. 医療にかかわる問題
      • 病状の判断が適切であったか
      • 薬物の処方がきちんと行われていたか
      • 振り返りをきちんとさせていたか
    2. 本人の問題
      • 焦りがなかったか
      • 心身の状態をありのままに医師に伝えていたか
    3. 職場の問題
      • 会社の復帰制度に問題はないか
      • 管理監督者,同僚の対応が適切であったか
  4. 復帰後の勤怠が不良である
    1. 医療にかかわる問題
      • 病状が適切に把握されているか(復帰による病状変化はどうか)
      • 治療上の対応が適切か
      • 「勤怠不良であることを本人がどう考えているか」を把握しているか
    2. 本人の問題
      • 体調の変化をありのままに医師に伝えているか
      • 仕事上の困難さを管理監督者に伝えているか
      • 調子が悪ければ休めばよいと考えていないか
    3. 職場の問題
      • 「勤怠不良であることを本人がどう考えているか」を把握しているか
      • 管理監督者が、「調子が悪いのだから仕方がない」と考えていないか
      • 勤怠の評価制度が機能しているか
  5. プレゼンティズム
    毎日出勤しており勤怠上の問題はないが、復帰後数か月経過しても職位や経験に見合った仕事ができない
    • 病気によっては元の状態にまでは回復しないものもある
    • 会社や管理監督者に対する不満(管理監督者とのコミュニケーションの問題)はないか
    • 人事制度の不備はないか
  6. 元の状態で仕事ができるようにはなるが1年未満に症状が再燃する
    1. 医療にかかわる問題
      • 病気の特性に関する理解ができていたか(環境要因が軽度でも再燃する病気は存在する)
      • 発症のプロセスについて振り返りができていたか
      • 薬の処方が適切であったか
      • 就業上の措置に関する意見が適切であったか
    2. 本人の問題
      • 休務したことを挽回しようとして無理をしなかったか
      • 薬を医師の指示どおり服用していたか
    3. 職場の問題
      • 過重な負荷がかからないように配慮できていたか
      • 就業上の措置に関する医師の意見を実行できていたか

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このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。