第5回 労働生産性

国が主導する働き方改革では、労働生産性の向上を強く求めています。ホワイトカラー・エグゼンプション(頭脳労働者脱時間給制度)導入の動きにもかかわることですが、我が国のホワイトカラーの労働生産性の低さがとくに問題となっています。
ところで、労働生産性とは何なのでしょうか。
労働生産性は、付加価値を総労働時間または総労働者数で割った値で示されます。分母の総労働時間は一人ひとりの労働者の労働時間数をすべてたし合わせたものなので、総労働時間で割った場合は労働1時間当たりの付加価値、総労働者数で割った場合は労働者1人当たりの付加価値を示すことになります。どちらを使ってもいいのですが、ここでは、総労働時間を使うことにします。
分子の付加価値は、営業利益に総人件費を加えた値です。営業利益は、売上高から売上原価と販売管理費を引いた値なので、付加価値はつぎの式で表すことができます。
付加価値=≪ 売上高 −(売上原価+販売管理費)+ 総人件費 ≫
売上原価と販売管理費には人件費が入っています。したがって、営業利益に総人件費を加えることは売上原価と販売管理費に計上済みの人件費を相殺することになります。ここが重要なのですが、付加価値には人件費は影響しないということです。
結局、労働生産性は、売上高から人件費を除く全経費を引いた値を総労働時間で割った値ということになります。
労働生産性=
付加価値÷総労働時間
=≪ 売上高 −(売上原価+販売管理費)+ 総人件費 ≫
÷総労働時間
=≪ 売上高 − 総人件費を除く全経費 ≫÷総労働時間
この式をみると、労働生産性を上げる方法が3つあることがわかります。
- 売上高を増やす
- 総人件費を除く全経費を減らす
- 総労働時間を減らす
第2回で取り上げた「健康経営」では、その活動が労働生産性の向上に繋がることを期待しているのですが、その意味でもっとも関係が強いのは、B総労働時間の減少でしょう。時間外労働の削減がうまくいけば、分母の値が小さくなるので、労働生産性が上がる可能性があります。ホワイトカラー・エグゼンプションもそこを狙った施策だと言えるでしょう。
一方、総労働時間の減少が売上高の減少に繋がる可能性もあります。それぞれの企業あるいは事業場での、売上高と総労働時間の関係の推移を分析することが必要です。正の相関が高い場合は、総労働時間が減ると売上高も減少することになり、労働生産性は上がりません。こうした場合は、業務のプライオリティの見直しを行い、プライオリティの低い業務を捨てることの決断が必要です。
一人ひとりの労働者の健康状態がよければ、そうでない状態のときよりも作業効率が上がることは確かです。しかし、この効率の向上が健康状態の低下という負の要因の減少に伴う量的な変化のレベルに留まっていたのでは、労働生産性への寄与の程度は限られています。効率の向上を質の変化に繋げる施策の導入が必要なのです。