河野慶三コラム 人事・総務の方へ

第6回 職場における対人関係ストレス

 職場における対人関係のストレス要因には、上司や同僚といった職場内の人間関係にかかわるものと、窓口業務などの対人サービスで業務の対象となる職場外の人との人間関係にかかわるものがあります。営業担当者にとっては、顧客先の担当者やその上司との関係もストレス要因となります。

 職場内の人間関係ストレスの背景にある事象のひとつとして、個々の労働者がもつ人間関係に関する様々な不満をあげることができます。産業医面談の場で語られることの多い不満を、@上司に対する部下の不満、A部下に対する上司の不満、B同僚に対する不満にわけて整理したのが表です〔河野慶三:職場の対人関係ストレス対策のポイント。安全と健康、63(2)24−17、2012〕。この表で同僚に対する不満としてあげたものは、部下に対する上司の不満でもあることも少なくありません。

 産業医面談の場で語られる労働者のこうした不満は、1回限りの体験の表現ではなく、職場の日常の活動の中で何度となく繰り返し体験された結果の表現であり、それぞれの人間関係に歪が存在していることを示しています。不満の解消に向けた活動が行われない場合には、この歪みが固定化し、その労働者はストレス状態に陥ることになります。この人間関係の歪みは、両者の認知の偏りの原因となり、さらにその関係の歪みを増大させるという悪循環を生じさせるのです。

 業務の対象となる職場外の人との人間関係にかかわるストレスの代表例としては、窓口業務の担当者が抱える来訪者との関係に関するもの、看護師など医療関係者が抱える患者およびその家族との関係に関するもの、教師が抱える児童生徒およびその父兄との関係に関するものがあげられます。いずれの例でも、攻撃的で人格を否定するような内容の言葉を一方的に浴びせられることが珍しくありません。その場での相手側に対する直接的な働きかけが難しいこともあって、労働者が相手に対して感じる「陰性感情」の処理が難しく、心身の強いストレス反応が生じやすいのです。このような業務に従事させる労働者に対しては、事業者は話の聴き方についての教育を行うとともに、相談体制を整備しなければなりません。

 職場における対人関係ストレスとしては、このほかにハラスメントの問題を取り上げる必要があります。ハラスメント対策は人権対策のひとつです。

 セクシャルハラスメントについては、男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律)第11条で、「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定められています。

 なお、いわゆるパワーハラスメントについては、わが国には措置に関する事業者の法的な責任についての規定はありませんが、労働者災害補償保険法の補償対象にはなっています。

表 産業医面談の場で語られることの多い対人関係の不満

上司に対する部下の不満 部下への対応が公平でない
上ばかり見ていて部下のことを考えていない
責任を部下に転嫁する
自分の考えを部下に押し付ける(部下の話が聴けない)
意思決定ができない
指示が明確でない
考えがころころ変わる
その時の気分でものを言う
担当業務に関する知見が不足している
部下の話についていけない
部下に対する上司の不満 勤務態度がよくない
指示したことしかしない(自分で考えようとしない)
指示に従わない。注意をしても無視する
仕事能力がないのに自己主張が強い
言い訳が多い
言うことは言うが行動が伴わない
安心して仕事が任せられない
同僚に対する不満 行動に表・裏がある
責任をもって仕事に取り組もうとしない
依存的である
自己中心的である(協調性に欠ける)
他罰的である(自分は悪くない)
不潔である
整理整頓ができない
勤務中の私語が多い
言動が乱暴である

このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。