河野慶三コラム 人事・総務の方へ

第8回 「事業場内メンタルへルス推進担当者」の役割

 「事業場内メンタルへルス推進担当者」は、労働安全衛生法にもとづく「労働者の心の健康保持増進のための指針(健康保持増進のための指針 公示第6号、平成27年)」で「産業医等の助言、指導等を得ながら事業場のメンタルへルスケアの実務を担当する者」として位置づけられていて、事業者にはその選任が努力義務として課されています。

 指針は、衛生管理者や常勤の保健師等から事業場内メンタルヘルス推進担当者を選任することを勧めていますが、すべての事業場で選任されることが望ましいため、小規模事業場については人事労務管理担当者を充てることも想定しています。前回取り上げた「衛生推進者」もその候補のひとつです。

 ところでこの指針は、メンタルヘルスケアを推進するために、@セルフケア Aラインによるケア B事業場内産業保健スタッフ等によるケア C事業場外資源によるケアの4つを、それぞれの事業場の中で一つのシステムとして機能させることを提言しています。これが実行できる体制を整備し、必要な投資を行うことを、事業者に強く求めています。

 「自分の健康は自分で守る」ことは当然です。そのためには、一人ひとりの労働者が「セルフケア」の意味と意義を十分理解し、それを実行することができなければなりません。もちろん、セルフケアができるようにするにはそのための教育が必要で、支援のための相談体制づくりも欠かせません。

 しかし事業場では、セルフケアのみで自分の健康を守ることができません。有害業務の存在や長時間労働など、事業者や管理監督者の関与がなければ適切なコントロールができない問題があるからです。「ラインによるケア」が必要な所以です。

 ラインによるケアは、職場のストレス要因を把握し、それを可能な限り減少させるために必須の機能です。職場の管理監督者には事業者に課された安全配慮義務の実行責任があることは周知のとおりで、その意味でも、事業者にとってラインによるケアを徹底することが重要です。事業者は研修の場を設け、管理監督者がその知識や技術を習得できるようにしなければなりません。これは、管理監督者に対するメンタルへルス教育として欠かせない項目です。

 セルフケアとラインによるケアがうまく機能するようにサポートすることは、事業場内産業保健スタッフ等にとってプライオリティの高い役割です。たとえば、管理監督者がいつもと違う部下を見つけても、その後を引き受けてくれる専門家がいなくては繋ぎようがありません。産業保健スタッフ等が自分自身で直接対応するかどうかはともかくとして、労働者自身や管理監督者の持ってきた課題を必ず受け止めることが必要です。自分の力では直接対応できないのであれば、事業場内外の人的資源を活用する仕組みをつくります。これがシステム化です。

 ちなみに指針は、事業場内産業保健スタッフ等の一員である事業場内メンタルへルス推進担当者の役割として、つぎの4つをあげています。

  1. 心の健康づくり計画の策定・労働者への周知・実行状況の把握の実務
  2. セルフケア、ラインによるケアを推進するための労働者教育や管理監督者教育の計画・立案・実施・評価の実務
  3. メンタルへルスに関する事業場内の相談窓口
  4. 事業場外資源との連携の窓口

 このように、事業場内メンタルへルス推進担当者には、事業場内で行われるメンタルへルス対策がスムーズに推進されるように調整する役割が期待されています。教育や相談そのものを直接担当することまでは求められていません。

このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。