第13回 定期健康診断に関するQ&A

新年度になり、健康診断の季節が巡ってきました。毎年繰り返し行っていることなので、例年どおりという事業場も多いと思われますが、健康診断の基本的な知識についてQ&Aの形で整理をしてみました。
Q1 健康診断にはどんな種類がありますか?
つぎの3つがあります。
- 法定健康診断(労働安全衛生法、じん肺法にもとづくもの)
- 行政指導による健康診断(厚生労働省労働基準局長通達にもとづくもの)
- 事業場独自の決定にもとづくもの
①のうち労働安全衛生法第66条第1項で定められた健康診断を一般健康診断とよびます。一般健康診断には5つの健康診断があるのですが、全労働者を対象として1年以内ごとに1回行うこととされているのが定期健康診断です。
Q2 定期健康診断を事業者が行わなければならないのは何故ですか?
法第66条第1項で「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない」と規定されているからです。これは罰則付きの強制規定です。
Q3 定期健康診断は就業時間外に行ってもいいのでしょうか?
就業時間内に行わなければなりません。
Q4 費用は誰が負担するのですか?
全額事業者が負担します。
Q5 労働者は必ず受診しなければならないのでしょうか?
法第66条第5項で労働者に受診義務が課されているので、労働者は受診しなければなりません。ただし、事業者が行う健康診断を受けたくない労働者は、厚生労働省令で定められた健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する文書を事業者に提出してもよいことになっています(この場合の費用は労働者が負担します)。
Q6 定期健康診断の実施の実務は誰が担当するのですか?
法的義務を負っているのは事業者ですが、実施の実務は50人以上の事業場の場合は衛生管理者、10人以上50人未満の事業場の場合は第7回で紹介した衛生推進者が担います。
Q7 定期健康診断の検査項目はどのようにして決めるのですか?
法の省令のひとつである労働安全衛生規則第44条でつぎのとおり定められています。
- 既往歴・業務歴の調査
- 自覚症状・他覚症状の有無の調査
- 身長・体重・腹囲・視力・聴力の調査
- 胸部エックス線・かくたん検査
- 血圧測定
- 貧血検査(血色素量・赤血球数)
- 肝機能検査(GOT・GPT・γ-GTP)
- 血中脂質検査(総コレステロール・HDLコレステロール・トリグリセライド)
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖・たんぱくの有無の検査)
- 心電図検査
検査項目を満たしていない健康診断は無効です(ただ、各項目について、定められている要件を満たす場合には、医師が必要でないと認めればその項目を省略することができます)。
検査項目を追加することは可能です。これはQ1の③に該当することになります、法定健康診断項目ではないので、衛生委員会で、追加する理由、根拠、データの取り扱い、有所見者への対応などについて十分審議し、労働者に周知しておくことが必要です。
Q8 人間ドックの結果を定期健康診断に使うことはできますか?
人間ドックの結果にQ7に示した11の項目がすべて含まれていれば、Q5で述べた方法を選択することができるので、使うことができます。ただその場合は、法定項目以外の結果を事業者が知ることになります。
Q9 健康診断結果は労働者個人に通知する必要がありますか?
健康診断の効果を高めるには、検査結果を労働者個人が知り、必要な行動を起こすことが欠かせません。ですから、検査結果は必ず文書で労働者個人に通知しなければなりません(法第66条の6)。これは罰則付きの強制規定です。
Q10 健康診断結果に対してどう対処すればいいのですか?
健康診断結果を受けとった事業者は、医師にその報告書を見せ、異常の所見がある者については、就業上の措置に関する意見を求めなければなりません(法第66条の4)。医師が就業上の措置が必要と判断した労働者に対しては、その労働者の実情を考慮して、産業医向け第12回で紹介した配置換えなどの就業上の措置を行います。
就業上の措置とは別に、医師、保健師による保健指導を行うことも努力義務として規定されています(法第66条の7)。
なお、異常の所見のある者のなかには、医師を受診して診断を確定し、それにもとづく治療を行うことが必要な者も存在します。しかし、法令上は治療そのものに事業者が関与することは求められていません。
Q11 健康診断記録の管理はどうすればいいのですか?
健康診断結果を保存する義務が事業者に課されています(法第66条の3)。一般健康診断の記録は5年間保存しなければなりません。記録の保存は電子媒体で行ってもかまいません。健康情報はもっとも機微な個人情報なので、個人情報保護法にもとづいた管理が必要です。
Q12 労働基準監督署への健康診断結果報告はどうすればいいのですか?
50人以上の事業場は定期健康診断結果報告書(様式第6号)を作成し、所轄の労働基準監督署長に提出しなければなりません(労働安全衛生規則第52条)。なお、この報告書には、産業医の氏名・産業医の所属機関の名称と所在地の記入、産業医の捺印が必要です。
Q13 健康診断を受診しない労働者にはどうどう対応すればいいでしょうか?
Q5に説明したとおり、労働者には健康診断の受診義務がかかっているのですが、受診しない者が必ず出ます。未受診者の受診歴を調べると、
- その年のみの未受診者
- 受診したりしなかったりしている者
- 連続した未受診者
に分けることができます。
① に対しては受診勧奨を行います。② は健康診断に対する関心が低い群なので、健康診断の意味や意義について理解を深めてもらうための教育を行うことが必要です。③に対して受診勧奨を行うことは、本人と健康推進部門との関係を悪くします。③は健康診断について何らかのネガティブな考えがあって受診しない群だからです。そうした考えを持つに至ったプロセスを個別の面談をとおして把握することがもっとも重要な対策となります。そのための面談は産業医が担当することが必要でしょう。
③に対して私が産業医として行っていることはつぎのとおりです。医療機関を定期的に受診している場合には、定期健康診断項目に相当する診断書を出すこと勧めます。そうでない場合は、「会社は今後も健康診断の案内は出すが受診するかどうかの判断はあなたに任せる。あなたの意思を尊重してそうするので、健康を自己管理してほしい。この話し合いの結果は記録に残すが、考えが変われば、そのときには申し出てほしい」ということにしています。ただ理屈を言えば、この対応では会社に安全配慮義務上の問題が残ることは事実なので、産業医と労働者の間に最低限の信頼関係が成立していることがその前提となります。