第15回 テレワークの導入にあたって「VDT作業の労働衛生管理」の徹底を

1980年代に入ると、VDT作業に従事する労働者が徐々に増加してきた。こうした状況を背景として、VDT作業が心身の健康に与える影響についての関心が高まり、当時の労働省は、1985年に、労働基準局長通達「VDT作業のための労働衛生上の指針について」(昭和60年 基発第705号)を出した。労働省は、この指針でVDT作業従事者に対する労働衛生の3管理と労働衛生教育に関する基本的な事項を示した。VDT健康診断の導入もこの通達にもとづいている。この通達は、17年後の2002年に改正され(「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて」平成14年 基発第0405001)、その後16年経過した現在も行政指導に用いられている。
30年以上の時が流れ、オフィスワーカーの大部分が定常的にVDT作業に従事するようになっている現在、VDT作業が従事者の心身の健康に与える影響についての関心は低下しており、事業場での労働衛生教育が適切に行われていない懸念もある。
小学校低学年からスマートフォンを使うことが一般化したため、事業者として労働衛生教育を行うチャンスを逸しているというのが実態であると推測される。しかし、学校ではVDT作業が心身の健康に与える影響について教育されているわけではないので、新入社員はその知識をもたないままVDT作業をしていることになる。業務としてVDT作業をさせる以上、労働衛生教育を行わないと、安全配慮義務を履行していないことになる。
VDT作業の健康影響は、視覚系、筋骨格系に現れるが、精神機能に対する影響もある。その特徴は、ドライアイを除くと他覚所見に乏しく、ほぼすべてが自覚症状であることである。VDT作業にみられる作業特性とその健康影響の主なものを表に示した。
こうした症状をコントロールするには作業管理が重要で、なかでも作業姿勢の管理と作業時間の管理が欠かせない。
- 〔作業姿勢〕
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- PCはデスク上に置き、キーボード操作は両腕を机上もしくは椅子のアームレストで支持した姿勢で行う。PCを膝に乗せた姿勢、両腕を浮かした姿勢、身体を捻った姿勢は避ける。
- ディスプレイと目の距離を50p程度に保つ。この距離が近いと姿勢が前屈みになる。ディスプレイの画面が小さい場合でも30p以下にしない。
- 作業中に、何度も意識して画面から目を離し、遠方を見るようにする(5m以上離れていれば遠方と考えてよい)。
- 〔作業時間〕
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- 一連続作業は1時間以内とする。1時間たつと必ず作業をブレイクする。椅子から立ち上がる、ストレッチをする、部屋の外へ出て歩くなどをして、作業中ずっと収縮していた筋肉を伸展させる。
- 1日の作業時間が8時間を超えないようにコントロールする。
- PC の画面から出る青色の光は覚醒作用をもっているので、少なくとも就寝前1時間はVDT 作業をしない。
安全配慮義務は、VDT作業の特性と健康影響についての知識を提供し、健康影響を可能なかぎり少なくする工夫を労働者自身が実行できるようにすることを事業者に求めている。
今回、人事総務担当者向けで紹介したテレワークの問題は、事業者にVDT作業の労働衛生管理を再度強化することの必要性を示唆していると言ってよい。
【VDT作業にみられる作業特性と健康影響】
VDT作業の特徴 |
まばたきが減る 涙が減る 近くをじっと見る 頭・腕・腰など姿勢が固定される 没頭しやすく長時間になる |
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眼科的症状 | 目が疲れる 目がかすむ 目が痛い 目が乾く 涙が出る |
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筋骨格症状 | 首や肩がこる 背中がはる 首・肩・背中が痛い 腕のしびれ感がある 腰が痛い |
精神的症状 | イライラする 疲れている感じが取れない 眠れない 仕事をしようという気持ちになれない ゆったりとした気持ちになれない |