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『河野慶三コラム』人事・総務の方へ

第19回 雇用対策法の改正

 2017年に閣議決定された働き方改革実行計画では、「賃金引上げと労働生産性の向上」「罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正」「病気の治療と仕事の両立」「子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労」など11の事項が実行すべき項目としてあげられました。働き方改革関連法は、この計画を具体化するための法律です。この法律によって雇用対策法、労働基準法、労働安全衛生法など8本の法律が一括して改正されました。

 「雇用対策法」(昭和41年法律第132号)は、雇用に関して国がその政策全般にわたり、必要な施策を総合的に推進するための要となる法律です。今回の改正で第1条が下記のように改められ、法律名も「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」に変わりました。
この改正法は、2018年7月に施行されました。


第1条(目的)
 この法律は、国が、少子高齢化による人口構造の変化等の経済社会情勢の変化に対応して、*労働に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、**労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的な地位の向上を図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的とする。
(改正前は、下線部*が「雇用」、**が「労働力の需給が質量両面にわたり均衡すること」でした。)

 法律の目的そのものは「労働者の職業の安定と経済的な地位の向上を図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資する」ことで変わっていないのですが、変わったのはつぎの2点です。

  1. 法律が係わる部分が雇用政策のみでなく労働政策にまで拡大された。
  2. 労働者がその能力を有効に発揮する方法として、新たに労働者の多様な事情に応じた雇用の安定、職業生活の充実、労働生産性の向上が並列して取り上げられた。

 これを受けて、法律にもとづいて国が行う施策として、新たにつぎの4つが追加されました(第4条第1項、第6項、第9項)。

  1. 労働時間の短縮その他の労働条件の改善
  2. 多様な就業形態の普及
  3. 雇用形態または就業形態の異なる労働者間の均衡のとれた待遇の確保
  4. 仕事と生活(育児、介護、治療)の両立

 今回の改正で気になるのは、労働者がその能力を有効に発揮する方法として、雇用の安定、職業生活の充実とのならびで労働生産性の向上が取り上げられたことです。労働市場の機能が適切に発揮されると、雇用の安定と職業生活の充実をもたらす可能性が高いことは容易に推測できるのですが、労働生産性を上げることにどう繋がるのだろうという疑問です。普通に考えると、能力を有効に発揮した結果が労働生産性の向上に繋がるのであって、その逆ではないからです。
 労働生産性については、第5回で取り上げているので、参照していただきたいのですが、理論上、売上高を上げる、人件費を除く総経費を下げる、総労働時間を減らすと労働生産性は上がります。労働市場の機能が適切に発揮されると、この3つの要素がどう動くのかがどうもはっきりしません。

 改正の内容は、職場環境に大きな影響を与えます。国の施策が推進されれば、職場環境の改善が大きく進展する可能性があります。労働者にとって大きなストレス要因となる職場環境が改善し、メンタルヘルス不調の一次予防への寄与も期待されます。
 しかし、気をつけなければならない問題もあります。
 (1)の労働時間の短縮は、長時間労働を防ぐという点では、労働者の健康確保に役立ち、定義上、労働生産性を上げます。しかし、労働時間の短縮に仕事量そのものを減らすことが伴わなければ、労働密度が上がり、かえって労働者の受けるストレスが増大しかねないという問題があります。ヒトは機械ではないので、集中力の維持には時間的な限界があります。
 (2)に含まれる、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)は、本人が希望することを前提として、法令で定める要件と手続きを満たす者について、労働時間制限や時間外労働に付随する割増賃金の支払いをしなくてもよいことにする制度で、経営側が強く望んできたものです。もちろん、健康確保のための施策は規定されていますが、対象者が仕事の仕方をどこまでセルフコントロールできるかが大きな課題です。
 (3)(4)は、労働者の健康を確保するうえで重要な施策です。ただ、労働者間の利害が相反する可能性を含んでいるため、マネジメントの適切な関与が必要です。管理監督者のマネジメント能力を高める施策を合わせて行うことが求められます。そうでないと、職場環境を悪化させる危険性があることは十分認識しておくべきでしょう。

 
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