第20回 話を聴くということ

相談では、一義的には、相談担当者ではなく来談者が、自分の抱えている問題に取り組み、自らの手でそれを解決することが求められます。相談担当者の役割は、そのプロセスを支援することであって、本人に代わって問題を解決してあげることではありません。
相談は、来談者と相談担当者の交流のひとつの形態です。交流における「あなた」と「わたし」の関係は理論的につぎに示した4型に分けることができ、この4つ以外にはありません。
- わたしもあなたもOKである
- わたしはOKだがあなたはOKではない
- わたしはOKではないがあなたはOKである
- わたしもあなたもOKではない
交流がスムーズに進むのは、@の「わたしもあなたもOKである」場合です。すなわち、相談の効果を上げるには、来談者と相談担当者の関係を@にすることが必要です。そのための方法が話を聴くことなのです。
話を聴くことの第1のステップは来談者を受け止めることです。相談担当者は、来談者の話に関心があることを表情や姿勢・態度で非言語的に伝えます。患者の顔ではなくパソコンの画面を見ながら診察を行う、病院の外来でよくみかける医師の姿は、相手を受け止めていないことを非言語的に伝える典型です。来談者の話には、まとまりがなかったり、同じことを繰り返したり、合理的でなかったりなど、受け止めがたいことが少なくありません。そうすると聴くほうはどうしてもそれを批判したくなります。その気持ちになったときには、相談担当者はA「わたしはOKだがあなたはOKではない」形で来談者に対応しています。その気持ちを持ちながら話を聴いていると、それは相手に伝わり、来談者もAの状態になります。これでは相談は成立しません。
来談者の話を受け止めることが難しいと感じたときには、もし自分が相手と同じような立場に置かれたとしたら(そうした事態に至らないことは100%わかってはいるが)、自分も同じような表情をしたり、言動をしたりするかもしれないなと考えてみることをお勧めします。これは英語の仮定法の話です。“If I were a bird, I could fly.”私たちは鳥になれないことはわかっているが、鳥になって飛んでみれば、人間とは違った見え方で見えるものがあるのだろうと考えてみるのです。これが話を聴く第2のステップです。相談担当者からみれば不合理な話ではあっても、来談者がそう考えていること自体は事実なので、少なくともそのことは尊重しようという気持ちになります。「複眼で聴く」のです。
話を聴く第3のステップは、自分を見つめ、自分が来談者の話を聴ける心理状態であるかどうかを確認することです。来談者の話を聴いていると、怒り、不満、悲しさ、失望など様々なネガティブな感情がわいてくることがあります。まずその感情を自分で確認し、評価をしないでこころにとめておきます(その感情が生じたことは事実なので、そのまま受け止めます。その感情が生じたこと自体はいいことでも悪いことでもありません)。こころにとめたままで相手の話を聴いていきます。自分の感情をすぐに言葉にしたり、行動に移さないことがポイントです。そうすると、自分に生じた陰性感情が徐々に消えていきます。落ち着いたところで、必要があれば、その感情を相手に的確に伝えます。
それぞれのステップは、順に受容、共感、自己一致とよばれています。話を聴くことは簡単ではありませんが、その気になって訓練をすればできるようになります。