河野慶三コラム 産業医の方へ

第20回 Well-beingは「幸福」と翻訳されることもある

 WHOの健康の定義には、well-beingという用語が使われている。その原文は次のとおりであるが、このwell-beingにぴったり当てはまる日本語はない。

 Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

 アメリカの政府機関であるCDC(Centers for Disease Control and Prevention)は、文献検索の結果として、「well-being にはコンセンサスが得られている一義的な定義はないが、少なくとも次の5項目を満たす“状態”である」ことにはおおよその同意が得られていると報告した。

  1. 肯定的な感情と気分(例:満足、楽しさ)がある
  2. 抑うつや不安などの陰性感情がない
  3. 人生に満足している
  4. 達成感を持っている
  5. 前向きに機能している

 それを受けて、単純化するとすれば、「well-being は人生を肯定的に捉え、人生がうまくいっていると感じている状態である」と付記した。

 また、well-being の多面性についても言及し、文献上、well-beingについては身体的(physical)、経済的(economic)、社会的(social)、発達と活動性(development and activity)、感情的(emotional)、心理的(psychological)、人生満足度(life satisfaction)、活動領域ごとの特化された満足度(domain specific satisfaction)、社会活動と仕事への参加度(engaging activities and work)の9つの領域からの検討が加えられていると述べた。

 ところで、最近幸福の研究が、心理学、神経科学だけでなく経営学の領域でも活発に行われるようになり、働くことと幸福との関係についての関心も高まっている。幸福学では幸福の学術用語としてwell-beingを用いているが、幸福学で用いられるwell-beingには、hedonic(快楽的)なものとアリストテレス哲学でいうeudaemonic(倫理的)なものが含まれている。Hedonic well-beingはhappinessとほぼ同義で、 well-beingの感情的な側面にフォーカスした短いスパンの幸福を意味している。それに対しeudaemonic well-beingは、倫理的側面にフォーカスした長期的な幸福のことで、英語ではhappinessではなくflourishingとほぼ同義である。これはCDCが言っている「人生を肯定的に捉え、人生がうまくいっていると感じている状態」に近い。

 このように、well-being という用語は多領域で使われており、使われる領域(domain)によってその意味が必ずしも同じではないことを理解しておきたい。

 ( Health-Related Quality of Life (HRQOL)よりWell-Being Concepts 最終アクセス2018年12月23日 )

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このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。