河野慶三コラム 人事・総務の方へ

第21回 「心身の状態の情報の適正な取扱いのための規程」を策定してください

 2018年に改正された労働安全衛生法第104条第3項、じん肺法第35条の3第3項の規定にもとづいて公示された「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱い指針公示第1号、2018年9月)は、心身の状態の情報の取扱いに関する原則を示す同時に、事業者に心身の状態の情報の適正な取扱いのための規程の策定を求めています。
 これは、個人情報の保護に関する法律が改正され、心身の状態の情報が、不当な差別、偏見その他不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要する要配慮個人情報に指定されたことを受けた施策です(人事総務向け第4回を参照)。

指針が求めている項目はつぎのとおりです。

  1. 心身の状態の情報を取り扱う目的及び取扱い方法
  2. 心身の状態の情報を取り扱う者及びその権限並びに取り扱う心身の状態の範囲
  3. 心身の状態情報を取り扱う目的等の通知方法及び本人の同意の取得方法
  4. 心身の状態の情報の適正管理の方法
  5. 心身の状態の情報の開示、訂正等(追加及び削除を含む)及び使用停止等(消去及び第三者への提供の停止を含む)の方法
  6. 心身の状態の情報の第三者提供の方法
  7. 事業継承、組織変更に伴う心身の状態の情報の引継ぎに関する事項
  8. 心身の状態の情報の取扱いに関する苦情の処理
  9. 取扱規程の労働者への周知の方法

 規程の具体的な内容は、企業あるいは事業場の実態を考慮して衛生委員会などで審議して決めます。私が考えた規程案を参考のために例示しておきます。

「心身の状態の情報の適正な取扱いのための規程」の例

 「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」にもとづき、従業員の心身の状態の情報の適正な取扱いにつき、つぎのとおり定める。

(目的及び取扱い方法)
第1条 従業員の健康確保措置の実施、安全配慮義務の履行に必要な心身の状態の情報(以下、情報)を適正に収集管理し、その的確な使用に資すること目的とする。
  1. 情報の取扱い方法については、本規程の定めるところによる。
  2. 本規程の全文を社内イントラネットに収載し、従業員に周知する。
(情報の範囲)
第2条 取扱いの対象となる情報はつぎの各号で定めたものとする。
  1. 労働安全衛生法令にもとづき事業者が直接取り扱うこととされており、労働安全衛生法令に定める義務を履行するために、事業者が必ず取り扱わなければならない情報。
  2. 労働安全衛生法令にもとづき事業者が労働者本人の同意を得ずに収集することが可能な情報。
  3. 労働安全衛生法令において事業者が直接取り扱うことについて規定されていないため、あらかじめ従業員本人の同意を得ることが必要な情報。
(情報の取扱い)
第3条 前条第1号、第2号の情報は、労働安全衛生法等の法令で定められた内容に限定し、定められた方法で収集する。
  1. 前条第3号に該当する情報は、事業者による就業上の措置を行うために使用する場合を除き事業者には開示されない。
  2. 開示に際しては、産業医が当該従業員にその内容を説明し、口頭による同意を得る。産業医はその旨を記録に残す。
  3. 事業者は、開示された情報を就業上の措置を的確に行うことに限定して使用する。
(情報の取扱者及びその権限)
第4条 衛生管理者は、第2条各号すべての情報の取扱責任を負う。
  1. 衛生管理者は、本規程の運用の事務を統括する。
  2. 産業医、保健師・看護師は情報にアクセスすることができる。
  3. 産業医、保健師・看護師は、本規程の運用につき必要な助言を行う。
(情報の第3者への提供)
第5条 健康保険組合との契約にもとづき、法定の定期健康診断項目の結果を健康保険組合に提供する。
(事業承継、組織変更等に伴う情報の引継ぎ)
第6条 法人格の異なる組織への組織としての情報の引継ぎは行わない。
(情報の開示、訂正等)
第7条 情報の開示、訂正等(追加及び削除を含む)、及び使用停止等(消去及び第三者への提供の停止を含む)については、その内容、理由を明記した事業者宛ての文書にその事実を裏付ける書類を添付して、衛生管理者に申請することができる。
(苦情の申し出)
第8条 情報の取扱いに関する苦情には衛生管理者が対処する。その内容、理由を明記した事業者宛ての文書にその根拠となる書類を添付して衛生管理者に申し出ることとする。

このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。