河野慶三コラム 産業医の方へ

第22回 労働時間の延長にかかわる法規制

 大企業では2019年4月1日から、中小企業でも2020年4月1日から、労働時間の延長にかかわる法的な規制が強化され、新たに医師による面接指導の実施が事業者に義務付けられることになった。産業医にはさらなる法令上の関与が求められる事態となっている。

 医師による面接指導の新たな対象となるのはつぎの3者である。

  1. 労働時間を延長するための36協定該当者
  2. 36協定適用外である、新技術・新商品等の研究開発業務従事者
  3. 高度プロフェッショナル制度対象者

 今回は、産業医にはあまりなじみのなかった、労働基準法にもとづく労働時間規制について紹介する。

1. 法定労働時間、所定労働時間 、法定休日、36協定

 労働時間は、労働基準法第32条で、原則として週40時間かつ1日8時間を限度とすることが定められており、この時間を法定労働時間という。企業は、法定労働時間の範囲であれば、独自に労働時間を決めることができる。企業が就業規則で定めたこの時間が所定労働時間である。
 法律上の時間外労働は、法定労働時間を超える労働のことであり、所定労働時間には影響されない。
 さらに、労働基準法第35条には休日の規定があり、事業者は毎週少なくとも1回、あるいは4週に4回以上の休日を与えなければならないとされている。週1回あるいは4週に4回の休日を法定休日という(たとえば週休2日制の場合、週1日のみが法定休日)。法定休日でない休日の労働は、法律上は時間外労働にカウントされる。
 労働者に時間外労働をさせること、法定休日に働かせることは労働基準法に反する行為であるが、事業者が、労働基準法第36条の規定にもとづいて労働者の代表と協定を結び、所轄の労働基準監督署長に届け出をすれば、協定の内容にしたがって労働させることが可能となる。この協定は通常36協定とよばれている。

2. 36協定にもとづく時間外労働の上限

 36協定にもとづく時間外労働の上限には法律上の規制はなく、厚生労働大臣告示による行政指導が行われてきたが、昨年の労働基準法の一部改正で、大企業では今年の4月1日、中小企業では来年の4月1日から、時間外労働が罰則を伴う法規制を受けることになった。規制の内容はつぎの1)、2)のとおりである。この上限を超える労働は違法となる。


1)36協定の上限

  1. 時間外労働:月45時間、年360時間以内
  2. 時間外労働+休日労働:1か月であれば100時間未満
               2〜6か月平均がいずれも80時間以内

2)36協定で特別条項を結んだ場合の上限

  1. 時間外労働:年720時間以内
          月45時間を超えることができる限度は年6か月
  2. 時間外労働+休日労働:1か月であれば100時間未満
               2〜6か月平均がいずれも80時間以内

 今回の規制で鍵となるのは、1)、2)ともにAの時間外労働と休日労働を合わせて許容される時間が月平均80時間以内ということである。休日労働単独の時間規制はないので、特別条項を結ぶ、結ばないにかかわらず、計算上の上限は年960時間になる。
 特別条項を結ばない場合、たとえば、時間外労働を月30時間、休日労働を月50時間(これがどの程度現実味があるかは疑問だが)とすれば、月80時間となる。これを毎月続けると年960時間となる。
 特別条項を結んだ場合は、時間外労働と休日労働の合計を、6か月間は月45+35時間、残りの6か月は月75+5時間とすれば、結局960時間が上限となる。
 しかし、法律改正の主旨に照らせば、年間協定値960時間が望ましくないことは明らかである。労働基準法第36条第7項にもとづく「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日について留意すべき事項等に関する指針」(平成30年 厚生労働省告示第323号)でも、労働時間の延長及び休日の労働は必要最小限にとどめることを求めている。
 36協定の届出の内容として、時間外労働については対象者の範囲、1日当たり、1か月当たり、1年当たりの時間数それぞれの上限の記載、法定休日の労働についても対象者の範囲、1か月当たりの回数、始業・終業時刻の記載が求められている。労使の協議では、職場の状況を考慮して、この細部の詰めを十分に行い、長時間労働を可能な限り減少させることが肝要である。
 なお、指針は第8条で、限度時間を超える労働者に対する健康および福祉を確保するための措置として「労働時間が一定時間を超えた労働者に対し医師による面接指導を実施すること」など9項目をあげ、9項目の措置のうちから選んで協定事項とすることを求めている。
 この場合の医師による面接指導はすでに過重労働対策として定められている労働安全衛生法の第66条の8の規定にしたがって行うこととされた。すなわち、労働安全衛生規則第52条の2第1項の「休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間について、1月当たり80時間とする」が適用されることになる。この条文は、改正前は1か月当たり100時間であったが、80時間に短縮されている。疲労の蓄積があること、本人からの申し出を要件としていることは変わっていない。

3. 36協定の適用除外

 新技術・新商品等の研究開発業務にはこの上限規制は適用されない(労働基準法第36条第11項)。どの企業においても、こうした業務に従事している労働者の長時間労働への対処は十分ではなく、適用除外になることは問題であるが、医師による面接指導の実施義務を事業者に課すことで妥協が図られた。
 この面接指導の対象となる者については、労働基準法ではなく、労働安全衛生法第66条の8の2に規定が新設され、労働安全衛生規則第52条の7の2で、「休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間について、1月当たり100時間とする」と定められた。すなわち、1週間当たり40時間を超えた時間外労働と休日労働の合計時間が1か月で100時間を超えると、面接指導の対象となる。この面接指導の実施は罰則付きの強制規定である。

4. 高度プロフェッショナル制度対象者に対する医師による面接指導

 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)は、本人が希望することを前提として、法令で定める要件(対象業務、年収要件など)と手続きを満たす者について、労働時間制限と時間外労働に付随する割増賃金の支払いをしなくてもよいことにする制度である(労働基準法第41条の2)
 したがって、この制度の対象者は働き方をすべて自己管理することになる。ただし、事業者には健康管理時間(事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間の合計)を把握すること、労働基準法施行規則で定める健康診断の実施など4項目のうちいずれかを協定することなどが求められている。
 さらにこれとは別に、労働安全衛生法第66条の8の4で、医師による面接指導の実施を義務付けており、労働安全衛生規則では、「健康管理時間が、休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間について1か月当たり100時間」と定めることになっている。この面接指導の実施も罰則付きの強制規定である。

5. いわゆる管理監督者の労働時間の把握

 労働基準法第41条では、いわゆる管理監督者は36協定の対象としないと定められているが、今回の労働基準法の改正では、この規定は変更されておらず、管理監督者の労働時間管理を行わないことに変わりはない。
 しかし、新設された労働安全衛生法第66条の8の3で、高度プロフェッショナル制度の対象者を除く全労働者について労働時間の状況の把握が義務付けられたため、管理監督者についても時間の把握をすることが必要となった。
 労働安全衛生法第66条の8で事業者の義務とされている医師による面接指導は、法律上は従来も管理監督者を含む全労働者が対象となっていたが、実務上、管理監督者の労働時間が把握されていなかったため、現実には実行されていなかった。この規定は4月1日に施行されるので、事業者は規定に該当する管理監督者に対する医師による面接指導を行わなければならない。

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このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。