河野慶三コラム 人事・総務の方へ

第23回 「健康管理時間」って何?

 健康管理時間は、産業医向け第22回で紹介した「高度プロフェッショナル制度」の導入に伴い、労働基準法で新しく規定された用語です。
 同法第41条の2第3号は、高度プロフェッショナル制度対象労働者の健康管理を行うために、当該対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間との合計の時間を厚生労働省令で定める方法で把握する措置を使用者が講ずることを義務付け、この合計時間を健康管理時間と規定しています。これを受けて、労働基準法施行規則第34条の2第8項では、健康管理時間をタイムカード、PCの使用時間などの客観的な方法で把握することを求め、事業場外の労働時間についてのみ、現実的に不可能な場合に限り自己申告でもよいと定めています。
 さらに、2019年3月25日付けで出された厚生労働省告示第88号「労働基準法第41条の2第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」によると、事業主は

  1. 日々の始期と終期を含む1日ごとの時間数
  2. 1か月当たりの合計時間数

を把握することが必要とされています。

 つぎは、把握した結果をどう使うかです。
 労働基準法令は、高度プロフェッショナル制度の導入に際して、つぎの項目のいずれかに該当する措置の実施を就業規則などで定めることを事業主に求めているのですが、項目ACで、その基準として健康管理時間が使われています。

  1. 勤務間インターバル制度:インターバル時間は11時間、月4回まで
  2. 健康管理時間の上限:1か月100時間、3か月では240時間
  3. 1年に一度以上、継続した2週間の休日付与
  4. 健康診断の実施:健康管理時間が月80時間を超える、あるいは本人からの申し出があった場合

 労働基準法とは別に、労働安全衛生法は第66条の8の4第1項で、高度プロフェッショナル制度対象者について、医師による面接指導の実施を義務付けています。その条件として健康管理時間が用いられ、休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えた時間*の合計が月100時間とされています(労働安全衛生規則第52条の7の4第1項)。これに違反すると事業者には50万円以下の罰金が科されます(同法第120条第1項)。

 高度プロフェッショナル制度は、経営者側の強い要望を背景として創設されました。この制度のねらいは、労働契約下にある労働者が、自分の意思によって労働の時間や場所に束縛されないで働けるようにすることによって労働の自由度を上げ、労働生産性(人事・総務向け第5回 参照)を高めることとされています。
 しかし、労働生産性を上げることが長時間労働に直結する危険性が強く指摘され、健康問題が発生しないようにするための安全措置をどう設定するかが議論されました。その結果のひとつが健康管理時間の規定ですが、内容をみると労働時間との違いは判然としません。高度プロフェッショナル制度は、労働時間管理をしないことを売りのひとつとしていることもあって、労働時間という用語が使えなかったのだろうと推測しています。

 ところで、高度プロフェッショナル制度とは関係がないのですが、36協定の適用を除外されている新技術・新商品などの研究開発業務に従事する労働者には、労働安全衛生法第66条の8の2第1項の規定が適用され、医師による面接指導の実施が事業者に義務付けられています。その条件としてやはり健康管理時間が用いられ、休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えた時間*の合計が月100時間とされています(労働安全衛生規則第52条の7の2)。高度プロフェッショナル制度の場合と同じく、これに違反すると50万円以下の罰金が科されます(同法第120条第1項)。

*の註

1週の法定労働時間は40時間なので、それを基準にして超過時間の計算を行う。たとえば、所定労働時間が週35時間の事業所の場合、週5時間積み増せるので基準の100時間は120時間になる。

このコラムの執筆者プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。