第25回 管理監督者の「労働時間の状況」の把握はできていますか
2019年 7月29日

2018年に改正された労働安全衛生法が、今年の4月1日に施行されています。この法律改正で新たに、管理監督者を含む労働者の労働時間の状況の把握を行うことが事業者に義務づけられました(労働安全衛生法第66条の8の3)。労働基準法は労働時間管理の対象から管理監督者を除外しているので、現在も、事業者には、管理監督者の労働時間管理を行う法的な義務はありません。
そういうわけで、事業者は管理監督者について、労働時間管理はしなくてよいが労働時間状況の把握はしなければならないことになりました。労働時間の状況と労働時間はどう違うのでしょうか。厚生労働省は、「労働時間の状況の把握とは、労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものです」と説明しています。割り切って言えば、両者に事実上の違いはないが、法律が違うので、使用目的が異なるということでしょう。
では、労働時間の状況は、労働安全衛生法ではどのように用いられるのでしょうか。新しい労働安全衛生法第66条の8第1項とそれを受けて改正された労働安全衛生規則の内容をつぎに示します。
事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者(次条第1項に規定する者及び第66条の8の4開発第1項に規定する者を除く)に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう)を行わなければならない。
- 要件(労働安全衛生規則第52条の2)
休憩時間を除き1週間あたり40時間を超えて働かせた場合におけるその超えた時間が、1月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者 - 実施方法(労働安全衛生規則第52条の3)
要件に該当する者の申し出による
この条文の見出しは「面接指導等」であり、一定の要件を満たす労働者に健康保持を目的とした医師による面接指導を行うことを事業者に義務づけています。したがって、労働時間の状況は、医師による面接指導の該当者を選定するための要件として設定されていることになります。
ここで注目していただきたいのは、「次条第1項に規定する者及び第66条の8の4第1項に規定する者を除く」という括弧内の文言です。医師による面接指導を規定した労働安全衛生法第66条の8第1項は改正前からあり、改正で追加されたのは上記の括弧内の文言のみです。「次条第1項に規定する者」とは、労働基準法第36条第11項の新しい規定で36協定の対象から除外された「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務」に従事する者であり、「第66条の8の4第1項に規定する者」とは、高度プロフェッショナル制度適用者です(人事・総務向け第24回参照)。
追加された括弧内の文言によって、医師による面接指導の対象者が、新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務従事者・高度プロフェッショナル制度適用者を除く全労働者であることが明示され、このたび管理監督者もその対象となりました。
こうしたやや複雑な事態が人事総務担当者の理解を阻害していて、事業所における管理監督者を対象にした労働時間の状況の把握が円滑に機能していないように見受けられます。事業者は管理監督者の労働時間の状態を把握し、月80時間を超えている者にはその旨を通知しなければなりません。通知を受けて、疲労の蓄積を自覚している管理監督者は、医師による面接指導を受けるかどうかの判断をします。申し出があった場合は、事業者は医師による面接指導を必ず受けさせなければなりません。これは、罰則はついていませんが、強制規定です。
一般労働者の長時間労働規制が厳しくなり、現場では、そのしわ寄せが労働時間管理の対象とならない管理監督者に及ぶという事態が生じています。管理監督者の疲弊は職場環境を悪くする重要な要因です。今回の国の施策を契機として、人事総務部門が音頭をとり、「管理監督者が業務の見直しを行って重要度の低い作業を止め、業務量を削減する」ことを推進していただきたいものです。