河野慶三コラム 産業医の方へ

第25回 就業上の措置に関する産業医意見でフレックスタイム制度該当者をどう扱うか

 ある企業の産業医間の意見交換の場で、健康問題にかかわる就業上の措置に関する産業医の意見を出すに当たって、フレックスタイム制度該当労働者の場合、それをどう扱うかが話題となった。

 具体的には、「メンタルヘルス不調で長期に休務していた労働者が復帰する際には、産業医意見にもとづいて、就業上の措置として時間外労働の制限を一定期間行うことが一般的である。
この際、人事担当者から、就業制限をしている間は、フレックスタイム制度の適用をしない旨の産業医意見をつけてほしいとの求めがあることがある。
この要求にどう対処すればよいか」という話であった。

 この企業は、「就業規則の原則規定どおりに週5日間連続して就労でき、休務前に従事していた業務が遂行できることが職場復帰を認める要件」であるとしており、復帰時の半日勤務などの勤務時間短縮制度は設けられていない。
人事担当者は、休務中は療養に専念し、しっかり働ける状態になってから復帰してほしいと考えているが、メンタルヘルス不調による長期休務者の場合は、現実が必ずしもそうであるとは限らないので、働き方の原則から外れるフレックスタイムの適用は望ましくないとの思いがある。

 フレックスタイム制度は、労働基準法第32条の2で定められている制度である。
この規定によると、事業主が、労働組合と協定を結び、法で定められた下記@〜Cについて就業規則に書けば、法定労働時間の上限である1日8時間、あるいは1週40時間を超えて合法的に働かせることができる。

 たとえば、Aの精算期間を1ヶ月とし、Bの総労働時間を160時間と定めた場合は、月160時間の範囲内であれば、1日の労働時間が8時間を超えること、週40時間を超えることが許容され、事業主は時間外賃金を払わなくてよい。

  1. この項の規定による労働時間により労働させることができることとされる労働者の範囲
  2. 清算期間(その期間を平均し1週間当たりの労働時間が第32条第1項の労働時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、3ヶ月以内の期間に限る)
  3. 清算期間における総労働時間
  4. その他厚生労働省令で定める事項(別表参照)

 この制度の対象となると、労働者は就業規則で定められている始業時間と終業時間の縛りから解放され、自己の意思にもとづく都合に合わせた時間の就労が可能となる(22:00〜5:00の深夜時間帯は不可)。
就業しなければならない時間帯(コアタイム)の規定がない場合は、就労しない日をつくることも制度上可能である。
そうした意味で、フレックスタイム制度の拡大は、現在国が進めている働き方改革の重要施策のひとつとなっている。

 この制度には、うまくいけば労使双方にメリットがあることは間違いない。
また、この制度は労使の協定、就業規則での規定に根拠づけられていることから、制度の該当者にとっては、働きやすさという意味で、これは権利であると解釈することができる。
産業医意見によって、フレックスタイム制度の適用から外す行為は、場合によっては、労働者の権利を制限するおそれがあることになる。
したがって、適用から外すとの意見を出す場合には、産業医は、フレックスタイム制度を休務前と同じように適用することが健康上の問題を生ずる危険性を具体的に示し、当該労働者の理解を得ておく必要がある。
そうした具体例としてまず考えられることは、業務負荷がない状態では安定していた生活リズムが負荷によって崩れ、たとえば睡眠障害が起こって、人事が求める形での就業が困難になる事態である。

 今回の話題の結論は、産業医は安易に人事担当者の要求を容れてはいけないということだろう。

別表 労働基準法施行規則第12条の3

法第32条の3第1項第4号の厚生労働省令で定める事項は、次に掲げるものとする。

  1. 標準となる1日の労働時間
  2. 労働者が労働しなければならない時間帯を定める場合には、その時間帯の開始及び終了の時刻
  3. 労働者がその選択により労働することができる時間帯に制限を設ける場合には、その時間帯の開始及び終了の時刻
  4. 法第32条の3第1項第2号の清算期間が1ヶ月を超えるものである場合にあっては、同項の協定(労働協約による場合を除き、労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む)の有効期間の定め
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Dr.Kohno プロフィール

河野慶三先生

河野 慶三 氏(新横浜ウエルネスセンター所長)

名古屋大学第一内科にて、神経内科・心身医学について臨床研究。
厚生省・労働省技官として各種施策に携わる。
産業医科大学、自治医科大学助教授など歴任。
富士ゼロックスにて17年間にわたり産業医活動。
河野慶三産業医事務所設立。
日本産業カウンセラー協会会長歴任。
平成29年より新横浜ウエルネスセンター所長に就任。