【 第1回 】法令とは
2021年 4月22日(河野慶三コラム:通算 第31回)

4月になり、人事・総務で新たに労働衛生担当になった方もおられることでしょう。事業主には、労働契約にもとづいて支配下においた労働者の安全と健康を守る義務が「労働契約法」で課されています。これを「安全配慮義務」とよんでいます。安全配慮義務を履行するために必要な施策は、主として労働基準法と労働安全衛生法で規定されています。事業主は、この法律で定められた施策を最低限実行しなければなりません。労働衛生を担当する皆さんはその実行部隊に属します。実行に当たっては、その根拠となる法律の条文を読み、その内容を理解することが必要です。
そこでこのコラムでは、しばらくの間、初心者の皆さんを対象として、労働基準法や労働安全衛生法を読むために必要な基礎知識について、継続して解説することにしました。その第1回は「法令」とは何かです。
法律と命令を合わせて法令と呼んでいます。法律の「法」と命令の「令」からとった用語です。命令には政令と省令があります。
法律と命令の違いは、法律は立法府(国会)で審議決定するのに対し、命令は行政府が決定することです。立法目的を遂行するための基本的事項は法律で定め、より具体的な内容は命令で定めます。
政令と省令の違いは、政令は内閣が定め、省令はその法律を所管する省庁が定めることです(内閣府が所管する法律の場合は、省令は府令と呼ばれます)。法律の内容によっては、省庁間の利害が対立することもあるので、そうした事項については閣議で調整して政令で定め、さらに細かいことは省令で定めます。省令の決定権者は、各省庁を所管する閣僚です(労働基準法や労働安全衛生法の場合は厚生労働大臣です)。法律の制定や改正にはその手続きに時間がかかるため、すべてを法律で定めることは実際的ではありません。社会の変化に即応するには、こうした工夫が必要なのです。
その具体例を、「衛生管理者」について定めた、労働安全衛生法第12条第1項の一部を使ってつぎに示します。このように、政令・省令を見ないと、法律だけでは、規定の全体像が把握できない条文が出てきます。面倒といえば面倒な仕組みになっているわけです。
第十二条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業場の業務の区分に応じて、衛生管理者を選任し(以下省略)。
法律には法律名があり、制定された年とその年に制定された法律の何番目の法律かを示す番号がついています。労働基準法は「昭和22年法律第49号」、労働安全衛生法は「昭和47年法律第57号」です。労働基準法は昭和22年(1947年)、第2次世界大戦直後にできた古い法律であることがわかります。ちなみに、労働契約法は「平成19年法律第128号」なので、最近できた新しい法律です。
政令の名前は「法律名+施行令」となります。労働安全衛生法の場合は「労働安全衛生法施行令」です。省令には「規則」がつきます。労働安全衛生法の主たる省令は「労働安全衛生規則」ですが、 有機溶剤中毒予防規則・電離放射線障害防止規則・酸素欠乏症等防止規則・事務所衛生基準規則など多くの省令があります。
次回の話題は、「法令の条・項・号は住所表示の丁目・番・号に当たる」です。